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東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)23号 判決

一 前掲請求の原因事実中、本願発明につき、出願から審決の成立に至るまでの特許庁における手続、発明の要旨及び審決の理由に関する事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、右審決の取消事由の存否について考察する。

1 電極について

成立に争いのない甲第九号証(引用例)によれば、引用例には、「次の段階は溶接操作をする位置にナツトを据置くことである。これをするには、金属板シートSは穴あけプレスから除去され、新しい機械に移されて、第4図に示されるように、下部プラテン32と溶接アダプター34との間に挿入される。溶接アダプターはありふれた構造の溶接機(図示されていない。)の上部プラテンに着脱自在に取付けられている。下部プラテンは固定的である。しかしながら、上部プラテンは上下方向への移動に適応し、両プラテンは適当な溶接電流を与えうる電気的勢力の源泉に接続されることが理解されるであろう。」(三欄一八行―三一行)及び「次の段階は、下部プラテン32と溶接アダプター34に溶接電流を供給することに転じ、同時に溶接アダプターは下方へ移動する。金属板が電気導体性首環38上に置かれているので、ナツトの各隅部の底面がフランジ30の頂面にかみ合うや否や、両者間に溶接電流が通じ、接触面積が制限されているので、抵抗は比較的に高く、フランジのうちナツトの各隅部が置かれている部分は、可塑性になるまで熱せられ、ナツトの各隅部がフランジ30を貫通して押し下げられ、各隅部の下面が金属板Sの上側表面に接触するに至る。ナツトは、位置決めピン42の上に置かれ、位置決めピンは絶縁性スリーブ40の中に支持されているので、ナツトは、押し下げられる時に、スリーブ及びスリーブの置かれている突入体46を、発条52の圧力にさからつて、第5図に示す位置に達するまで押し下げる。溶接機の制御は、時間を調整してあるので、この時点に達すると、溶接電流が切断され、溶接アダプター34は上方へ移動し、作業周期の最初の位置に戻るので、別のナツトが対応孔64に供給されることになる。ナツトが金属板に溶着された後、その各部分の状態は、第6図ないし第8図に指示されているとおりである。第6図に示すように、フランジ30のうちナツトの各隅部の下にある部分は、溶解し、66に指示するようにナツトの側面に溶着される。」(四欄三一行―六三行)との各記載があることが認められ、右各記載によれば、引用例のものは、溶接されるべきナツトNと金属板Sとは、下部プラテン32と溶接アダプター34との間(厳密に言えば、下部プラテンの上面に設けられた首環38と溶接アダプター34の先端に取付けたキヤツプ60との間)に挾持され、上部プラテン、すなわち溶接アダプター34と下部プラテン32とをそれぞれ適当な電源、例えば変圧器の両端子に接続して、これら上下のプラテンを押接することにより、電流がナツトNと金属板Sとを介して上下プラテン間に流れ、ナツトNの下方突起とこれが接する金属板部分とを溶かしてこれらを相互に溶着することが認められる。このように溶接しようとする二つの部材を圧接しつつ電流を通じ、この際の両部材の接触部の電気抵抗を利用して大量の熱量を発生させ、この熱量により両部材の接触部を溶かし溶着を達成させる手段は、いわゆる「抵抗溶接」としてよく知られている溶接方法の部類に入るものであり、このような抵抗溶接方式においては、溶接すべき二つの素材を支持し、あるいは、押接するものが電極であることは技術上の常識であるから、引用例において、このような押圧作用をする上下のプラテンはそれぞれ電極をなす、すなわち、溶接アダプター34とキヤツプ60は上方の電極を、下部プラテン32は下方の電極をなすと解すべきである。また、引用例のものは、抵抗溶接として部材の接触部を溶かす際に機械的圧力を加えて溶接を達成するものであるから、右両極が耐圧性であることは明らかである。審決の認定に誤りはなく、本願発明と引用例のものとの間に差異はない。

2 保持体と凹陥部との関係について

成立に争いのない甲第四号証(本願発明の特許公報)によれば、本願発明の明細書の特許請求の範囲の項には「保持体が電極に固定されている。」及び「保持体が凹陥部内に深く挿入される。」という点について何ら記載されていないことが認められる。また、この保持体と凹陥部とを設けた目的について明細書中の記載を検討すると、前掲甲第四号証によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、「口金9の貫通孔を保持体2に嵌合して、突堤9dを透孔11の周縁部に置く。この際、突堤9dは凹孔3上に配す。」(一頁右欄五行―七行)及び「本発明は耐圧性電極の一方に絶縁性保持体を突設したから、ドラム罐の天壁及びその口金をこの部に嵌着し、これ等を2個の電極間に挾持して、加圧および電気溶着を簡単正確になしうる効果がある。」(一頁右欄三二行―三六行)との各記載があり、それ以外には、保持体及び凹陥部の作用効果に関する記載のないことが認められる。右各認定事実によれば、保持体は、口金を支持して、口金の天壁に対する位置決めを正確にするためのものであり、一方、凹陥部は、両電極を押接した際に、保持体の先端が相手側電極4に突当り、その押接作用を妨げることのないようにするために設けられたものと解されるから、その凹陥部は、溶接作用に支障を来さない程度に、保持体の先端を受入れる凹部を有すれば足り、原告ら主張のように保持体が電極に固定されており、この保持体が凹陥部内に深く挿入されなければならない必要性はない。ちなみに、前掲甲第四号証によれば、右公報第1図に示されている本願発明の実施例においても、口金9と天壁10との溶着が終了した段階、すなわち、両電極が最も接近した場合にも保持体2は、凹陥部5内にさほど深く挿入されるものではないことが認められる。したがつて、本願発明におけるこの部分の構成は、「一方の電極に絶縁性の保持体を取付け、保持体の先端を受入れるに足りる凹陥部を他方の電極に設ける」という程度の技術的事項に過ぎないものと解するのが相当である。

一方、引用例のものにおいては、前掲甲第九号証によれば、引用例に「適当な絶縁材で形成されたスリーブ40がある。その絶縁性スリーブに装架されて上端に丸いパイロツト部分44をもつ位置決めピン42がある。」(三欄三八行―四二行)との記載があることが認められるから、スリーブ40と装架された位置決めピン42は、全体として絶縁性保持体をなしていることが明らかであり、「位置決めピン」の用語からして、右絶縁性保持体は、本願発明の保持体と実質的な差異を有しないものと解される。したがつて、引用例のものは、本願発明のこの点についての要件((a))と一致している。

ところで、審決は、引用例のものにおける上方電極に収納されている永久磁石58の下面と、この磁石によつて吸引されキヤツプ60に当接しているナツトNの頂面との間に形成される空隙部(スペース)をもつて、本願発明の凹陥部に相当する旨説示するが、前掲甲第九号証によれば、引用例には、「永久磁石58とナツトNの頂面の間のスペースが設けられているので、ナツトは溶接中に磁石に溶着されないようになつている。そのナツトが収まるキヤツプ60は、銅または類似物あるいは合金よりなり、キヤツプに対しナツトは溶接中に溶着しない。」(五欄二九行―三七行)の記載があることが認められ、右記載に引用例の第4、5図を併せ考えるとき、右空隙部は、両電極が素材を押圧溶着する際、下方電極より突出しているスリーブ40、位置決めピン42が侵入するものではなく、ナツトNが永久磁石58に溶着されないためのものであると解されるのであつて、右空隙部をもつて本願発明の凹陥部に相当するものとすることはできない。

しかしながら、前掲甲第九号証によれば、引用例に「ナツトNは鉄または鋼鉄によつて形成され、最低価格で取得可能な、平坦な角形をなしている。そのナツトは、永久磁石58の磁力作用によつて溶接アダプターのキヤツプにある対応孔64中に保持される。」(三欄七五行―四欄四行)及び「ナツトが対応孔64に受入れられ、永久磁石によつてこの中に保持された後、溶接アダプターは、第4図に示される位置へ下降し、その結果、ナツトは位置決めピン42の上に合わさり、位置決めピンのパイロツト部分44はナツトのネジ65中へ侵入する。」(四欄一七行―二三行)の各記載があることが認められ、右各記載に引用例の第4、5図を併せ考えると、溶接アダプター34の下端部にあるキヤツプ60の中心部分に、ナツトNの上端及び位置決めピン42の上端パイロツト部分44を受入れるに足りる対応孔64、すなわち、凹陥部が設けられていることが認められる。もつとも、この凹陥部は、溶着されるべき素材であるナツトの頂部をも受入れるような構成になつているが、これは溶着されるべき一方の素材であるナツトを、上方の溶接アダプターの方に支持させる構成を採用したことに基づく単なる設計上の事柄に過ぎないと考えられるところ、本願発明のように、溶着されるべき素材である口金と天壁とをともに保持体に嵌挿する構成の方が、口金の天壁に対する位置決めを正確にする方法としては、普通かつ簡単に採用される手段である(これは、引用のものにおけるパイロツト部分44を有する位置決めピン42及び絶縁スリーブ40に対するナツトN及び金属板Sの嵌挿関係に徴しても、うかがうことができる。)から、本願発明のこの構成は、引用例のものの単なる設計変更の域を出ないものというのが相当である。右のとおりである以上、保持体と凹陥部との関係については本願発明と引用例のものとの間には、構成上実質的な差異を認めることができない。したがつて、引用例のものが本願発明の(b)要件をも具備しているとの審決の判断は結論において誤りがない。

3 両電極の対抗状態による押接、離脱自在について

引用例のものが抵抗溶接の部類に入ることは前記1で述べたとおりである。ところで、前掲甲第四号証によれば、本願発明の明細書には、「口金9の突堤9dは断面倒三角状であり、その下端はほとんど一線の状態といいうるから、電気導体性天壁10との接触抵抗を著しく大にし、電力の大部分を突堤9dの下端及び突堤9dにおいて消費し、しかも、突堤9dは下面から上面に行くに従い抵抗が漸減する故に、順次下方から上方へ溶融し天壁10に確実に溶着しうるとともに、加圧により突堤9dの溶融力が増加し短時間に溶着しうる。」(一頁右欄二三行―三一行)との記載があることが認められ、右記載によれば、本願発明も抵抗溶接の部類に入るものであることが認められる。つまり、本願発明も引用例のものも、ともに接合しようとする素材に電流を流し、その相互の接触部の電気抵抗を利用して発熱させ、この熱により部材の接触部を溶かし、このときに機械的圧力を加えて溶接を達成する抵抗溶接の部類に入る溶接方式であるから、両電極間には接合させようとする素材が必ず存在し、電極が相互に直接押接されるようなことは考えられず、また、その必要もない。したがつて、本願発明においても、両電極が直接相互に押接、離脱するような構成とは考えられず、この点については、本願発明は、審決が説示しているように、「両電極を、対抗状態により(溶接しようとする)素材に対し押接、離脱自在にする」ものであると解するのが相当であり、引用例のものとの間にこの点に構成上の差異を認めることができない。

4 溶接対象分野について

本願発明も引用例のものも、ともに抵抗溶接の部類に入る溶接方式のものであることは、前述のとおりである。

原告らは、本願発明が特に放電を利用する溶接方式であると主張するが、前掲甲第四号証によれば、本願発明の明細書中には、放電を利用する溶接方式であることは何も記載されていないことが認められ、また、実施例として甲第四号証に図示されている装置を見ても、放電を利用する技術は何も示されていない。したがつて、本願発明と引用例のものとの間に溶接方式において差異はない。原告らは、溶接方式に差異があるとし、これに徴し両者は技術ないし対象分野を異にする旨主張するが、その当を得ないことは、右によつて明らかであるし、両者とも口金またはナツトに設けられた突起が天壁または金属板表面に、同一の抵抗溶接(突合せ溶接)の方法により、溶着されるものである以上、引用例のものも、当然大容量の電力を使用することを前提としていることは、本願発明と同様であるから、これをドラム罐の口金接着に用いることができるものというのが相当である。のみならず、引用例のものにおいて大容量の電力を使用しても、電流は前述のようにキヤツプ60からナツトNと金属板Sとを介して首環38へと流れるから、原告主張のように「キヤツプ60と金属板Sとの間及び永久磁石58の下にある孔62内に電気短絡を生ずる」というようなことも考えられず、引用例のものは、放電ないし電気短絡防止という点においても、本願発明と格別の差違がないものと認められる。原告のこの点についての主張は採用しえない。

5 保持体と凹陥部との関係に基づく作用効果の差異について

(イ) 放電ないし電気短絡防止の効果について

原告らは、本願発明においては、保持体が凹陥部と相まつて、凹陥部内と他方の電極1間に放電ないし電気短絡の起るのを防止し、口金の貫通孔内のネジを損傷しない旨主張するが、前掲甲第四号証によれば、右のような効果は、本願発明の明細書には何ら記載されていないことが認められ、かつ、このような効果は、保持体が凹陥部内に深く挿入されてその空隙を埋めることを前提とするものであるが、右構成が本願発明の要件と認められないことは前述のとおりであり、のみならず、電極と口金との接触抵抗が口金とドラム罐の天壁とのそれより小さく、電極と口金との間に放電を生ずるような電圧がかからないから、もともと右放電が生ずるとは考えられず、原告主張の右効果を本願発明の効果ということはできない。

(ロ) 上下電極の左右動防止効果について

原告は、本願発明にあつては、保持体が凹陥部内に深く挿入されるから、電極4の降下の案内となつて同電極を

左右に動揺させることなく上下動させると主張するが、前掲甲第四号証によれば、このような効果は本願発明の明細書中に何ら記載されていないことが認められ、かつ、このような効果は「保持体が凹陥部に深く挿入される」という構成を前提とするものであるが、右の構成が本願発明の要件でないことは前述のとおりであるから、原告主張の右効果を本願発明の効果ということはできない。なお、引用例のものは、第4、5図からみて明らかなとおり、原告主張のように「ナツトNと対応孔64との間に空隙があり、ナツトNが左右動するようになつている」とは認められず、むしろ、その空隙は僅かであり、また、下部プラテン32においても、絶縁スリーブ40が相当長く孔36に嵌つているので、これが引つ込む際においても、両電極のセンターがずれるようなことは考えられず、両電極相互の左右動防止の点についても、本願発明との間に差異がない。

6 本願発明を引用例のものと対比し、総合的に考察しても、両者の間に原告ら主張のような技術的特段の差異を認めえないことは、以上に説示したところから、すでに明らかであり、通電手段についての原告らの指摘も失当である。すなわち、本願発明も引用例のものも抵抗溶接方式であつて、一対の電極を有するものであることは前述のとおりであるところ、これら一対の電極はそれぞれ変圧器の二次側の両端子に接続されるものと解するのが技術常識であり、電流は抵抗の最も少ない最短の通路を通るものであるから、引用例のものにおいても、前記1で述べたとおり、一方の電極である溶接アダプター34、キヤツプ60、ナツトN、金属板S、下部プラテン32(他方の電極)へと順次流れ、本願発明におけると同様に一方の電極から他方の電極へと流れるものであり、通電手段に差異は認められない。なお、引用例において、原告主張のように「上下のプラテンのそれぞれから金属板Sへと電流が流れる」とすれば、漏洩電流が多過ぎて到底実用に耐えるものではない。

以上のとおりであつて、審決の判断は正当であり、審決に原告ら主張のような違法はない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告らの本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

(a) 二個の耐圧性電極の一方に、絶縁性の保持体を突設し、(b) 他方の電極に、保持体に対応する凹陥部を設け、(c) 両電極を対抗状態により押接、離脱自在にしたことを特徴とする(d) ドラム罐の口金接着装置

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